主人公の名は田中哲郎　舞台は新潟県
自ら「幻の酒」と名付け　その蔵を指導し
「吟醸酒」造りを奨励してきた男の物語である
高瀬斉（たかせ　ひとし）著　312頁
　雪国の夜は深い静けさに包まれる。深々と雪が降り続く夜はその静寂がより深まるという。
　その覆うような、無音の静けさに包み込まれた酒蔵の仕込み桶、その中だけは、発行途中の醪がフツフツと沸き、小さな泡がプチプチとはじける音が絶えず聞こえてくる。（本文より）
日本酒の低迷を救ったのが「吟醸酒」という現実を見るにつけ、田中哲郎が大量生産しか考えなかった当時の業界に逆らい、戦後の混ぜものの酒の中から未来品質、未来商品となるかもしれない「吟醸酒」の大切さを教えてきた先見性を持っていたということを若い酒造家のみならず多くの酒造家達、そして日本酒ファンに知ってもらいたいのである。決して頑固だけがいいというのではない。しかし、時代の流れにだけ身を任せてきた日本酒業界に大きく立ちはだかり、流を逆上させるくらいの気迫を持った酒造りをやる酒造家が、もっと多く出てきたもらいたいおいう思いがこの本を書かせたのである。（あとがきより）
【目次】
Ⅰ　原点
Ⅱ　出会い
Ⅲ　波乱
Ⅳ　執念
Ⅴ　幻の酒